鳴子町観光協会 温泉療養部会の基本的な考え方
平成14年 高橋亨
高度経済成長がもたらした、便利で快適な生活。
しかしその一方で、現代人の心と体に忍び寄る疲弊感は誰もが感じるものであり、私たちはそれを温泉の持つ力で取り除き、訪れる方々に、元気を取り戻せるような環境を準備したいと考えます。
l 物質優位の生活にあまりにもなじみすぎた結果、本質を見失いかけた人々へ、原点への回帰を。{保養}
l 現代生活の利便性に対し疑問を感じながらも、それを捨てきれないでいる人々へ、よい意味での不自由さを。{休養}
l 自ら半病人を自覚しながらも入院することができない人々へ、本当の自分らしさを。{療養}
湯治、まさに”湯で治す”です。
基本方針
長い間、当町を育んでくれた温泉。
五地区それぞれの、異なった温泉の持つ特質と効能。
この事業は、それらの伝統的風土、温泉の経験的効能に立脚した地域の再生を基本として実行されます。
基本計画
温泉の療養的活用、、、この事業の基となる計画です。
それは、現代医学と提携しながら、入院するまでもない方々を対象とした
さまざまな温泉療養プログラムを企画、実行することです。
温泉の治癒力向上を図るとともに、その効能を見える形で提供したいと考えています。
l 町立鳴子温泉病院との提携促進
l さまざまな疾病に対応する療養プログラムの作成
l お客さんを受け入れる地域、宿の再点検。
これらを基に、計画を実施していきたいと思っています。
[地域と宿の再点検]
地域
ここでは、地域らしさ{鳴子らしさ}ということを皆と考えて行きたいと思います。
各地の風土{風情、人情、生活ぶり、独特の考え}の違いは、どこから来るのでしょうか。
景観の相違ということが、それを考える上で一つの答えを導いてくれるような気がしてなりません。
人々がその土地に初めて住み着いたときから、糧を得るための長い長い試行錯誤の末にその土地ならではの食物栽培が確定し、集団として社会化する上でさまざまな葛藤を繰り返し今の倫理観が醸造され、人と人、人とモノとの疎外感を埋める作業としてさまざまな学問、芸術、芸能{文化}が確立されたことを思うとき、それらの生い立ちとそれらの地域とが密接にかかわりあって今が在るとしか思えないのです。
私たちは、ここで私たちの地域の成り立ちを再度考えながら、その地域に根ざした“在り様”を探しながら事業を進めて行きたいと考えています。
変化を最小限にとどめ、いかに人々の暮らしをそれに溶けこめさせるか、
この事業を通してその答えを見つけられればと思っています。
宿
地域における旅館の在り様についても同様のことが言えるのではないかと考えます。
地域の生い立ちにそぐわない成長の仕方が、全国画一の形態を助長し今の観光衰退があるように思えてなりません。
人は、他と違うものには敏感です。
常に目新しいモノに飛びついては、楽しんだ挙句捨て、また新しいものを追い求めます。
私たちはその流れを拒絶するものではありませんが、迎合しようとも思いません。
時代の流れに左右されることなく、常に鳴子が鳴子であるための施設{在り様}を追い求めたいと考えています。
そして、それをお客さんと共有できれば、何かが見えてきそうな気がするのです。
湯治を考える時、一時期の隆盛は影を潜め、その施設とともに宿泊客の減少振りにはすさまじいものがあります。
しかしながら、人々が葬り去っても、真に必要なものは時代が拾いなおしてくれます。
このような観点から、湯治というものを鳴子らしく再構築していけたらと思います
そのための“効くの具現化”を促進すべき“医療との提携”です。
実施計画
基本計画を基に、次のことを実施していきます。
l 温泉療養プランの作成。
病院の了承をもらい既に作成済みで、現在
l 全町の宿泊施設へ、参加呼びかけ。
そのため、平成14年11月末をめどに参加希望の施設に対して全体説明会を実施したいと考えています
参加施設間でのネットワーク作り。
このことは、お客さんに対する適切な対応という点を考慮しながら進めていきます。
自分の施設で快方に向かわない場合は、よその施設を紹介するというように、お客さんのために、施設間の情報をできるだけオープンにしていきたいと思います。
また、お客さん同志の交流という点からも実施していきたいと考えています。
l
町内医療機関のネットワーク作り。
これに関しては観光農林課長から提案があり、今後増加が予想されるお客さんに対する適切な対応を図るため、その受け入れ体制を町内の開業医[鳴子医院 佐藤医院 遊佐クリニック 木幡医院]に要請するものです。
町執行部に対し起案書を提出、了承済みで近々お願いに伺う予定です。
l 鳴子町と他町村との連携。
これは、観光農林課を中心としたキャラバン隊を作り、他町村に温泉療養プランを紹介して疾病予防のためのお客さんを当町に誘客するというものです。
このことにより病院に足を運ぶ回数が減り、他町村の医療負担軽減にもつながると考えています。
l 健康手帳の発行
今年度中に骨子策定。 ただいま、作戦を練っているところ、、人材結集の集大成というものを考えています。 [ 02/12/2]
なんとか、骨子らしきものが出来上がりました。
[温泉療養部会 健康手帳について]
作成の背景にあるもの
1 湯治客の減少
ちょいと前、社会が緩やかに成長していたころ、人々の心にもゆったりと己を眺める余裕があり、また今日の頑張りが明日の糧につながると間違いなく信じられていた時代には、仕事の疲れを癒すための時節ごとの湯治が確実にありました。
正月の湯治に始まり、寒湯治、田植え前の湯治、さなぶり湯治、一番草借り入れ前の湯治、丑湯治、夏湯治、、、一年を通じ湯治文化は人々の労働の節目節目に間違いなく市民権を得ていたのです。
しかし今、何かが大きく変わり、今まで人々の心を支えていた大事なピンがちょいとズレ初めてからというもの、湯治文化の衰退はその速度を増し、社会から忘れられようとさえしています。
いったい何が大事なピンをずらしたのか、、、これに対する答えは、私たち療養部会がひとつひとつの企画を間違いなく遂行することで、いずれ見つけることができると考えています。
このような中、視点を健康志向に定めながら顧客の増加を図りたいと思います。
2 健康志向の高まり
健康に関するさまざまな情報が交錯する中、疾病予防 病状改善のための、温泉を活用した鳴子ならではの情報を発信する必要があると考えます。
健康手帳は、鳴子の情報を凝縮したものであり、お客様の健康増進の有効な手引書にしていきたいと思います。
作成の意図するもの
1 疾病予防とリピーターの確保
町立鳴子温泉病院で定期的に健康チェックを受けた時のデータを手帳に記入し自己の健康管理に役立てるもので、定期的に受診することで疾病予防とリピーターの確保につながると考えます。
この手帳は手始めに療養客に販売し、拡がりをみて集団予防の湯治客へと移行していきます。
2 他町村との連携を図り、温泉医療の中核化を目指す
健康手帳を他町村へ販売しながら、町立鳴子温泉病院への定期健康チェックの勧誘に努めます。
このことにより、早期発見による疾病予防が図られ、ひいては医療財政の負担軽減にもつながるものと考えます。
同時に、定期健康チェックのための滞在プログラムも考えていかなければなりません。 滞在プログラムの核として、公民館生涯学習教室を据えて町民との交流を図りながら鳴子の風土を体験してもらおうと思います。
3 鳴子町へのパスポート的役割
この手帳に次の特典を付けたいと考えています。
鳴子町のみならず連携する他町村の行政サービスの一部無料化。
民間施設利用の際に、一部サービス化を受けられる。
健康手帳の内容
1 鳴子町の概要
温泉の歴史 湯治の形態 豊富な泉質 五地区の特色
2 温泉がなぜ効くのか
温熱作用 科学的作用 物理的作用 転地効果[景観、気象、地理的条件の人体に及ぼす影響]
風土に触れてリフレッシュ[各地区の伝統祭事、風習の紹介] 旅館とお客さんのふれあい紹介
3 上手な入浴法
一般的入浴法 症状別入浴法 施設別の独特な入浴法
4 自分で見つけよう、楽しい湯治
旅館での過ごし方[ユニークな例を紹介] 五地区の散策路紹介 五地区の名物、そのお店とご主人の紹介
5 生涯学習活動の紹介
国際理解鳴子講座 はつらつ学級 エアロビクス ヘルシー教室 レディースアカデミー 子供のびのびクラブ
手話教室 英会話教室 パソコン教室 鳴子美食クラブ 中山豊麗教室 女性専科 みみずく学園 焼き物教室
菊作り教室 ふるさと講座 味あるクラブ 鬼首自然観察隊 婦人講座 男の教室 山の鬼の子学級 鬼首姓名研究会
6 健康チェック
血圧 脈拍 不整脈 体温 尿[蛋白 糖 潜血 ph] GOT GPT ALP γGTP 血清総蛋白 T−ch
中性脂肪 HDL−ch 尿酸 CRP RF LDH Che
受診の際に基礎的な健康チェックを行い、その結果を手帳に記録して、自らの健康作りに役立てるものです。
さらにこの手帳を持つことで、当町に限らず連携する他町村の行政サービスの一部無料化、民間施設利用の際の一部サービス化を受けられるよう検討していきたいと思います。
手帳は有料として、蓄えられたお金は今後の活動資金とします。
l 有料の温泉入浴手引書作成
温泉の上手な入り方、健康増進に関するアドバイスなどを盛り込んだ温泉ガイドブックを、奥鳴子.川渡国民保養温泉連絡協議会と共同で作成していきます。
l 巡回バスの運行
温泉療養プランに参加する意思があっても、病院へお客さんの送迎ができない施設のために、町営の定期巡回バスの実現を図りたいと思います。
療養プランのお客さんに限らず、町民の利用も視野に入れたものにしたいと考えています。
l 療養客の入湯税免除
このことは、税務課並びに病院の協力を得ながら実現を図りたいと思います。
特に病院側には、療養の証明を簡素化するなど手続き上の問題解決にも協力を頂戴したいと考えています。
l 病予防{健康促進}のための滞在プログラム作り。
これは、施設に滞在しながら、病院の指導の下健康に対する意識を高め、帰宅してからもその指導[生活習慣、食生活等]を実践していくというものです。
このプランは、誘客を図るため全国各地で実践されていますが、当町においては、どこのものでもない鳴子だけのものを作成するよう努力していきます。
l お客さんへの正しい情報提供。
症状に適した泉質と施設の紹介をはじめ、施設の周辺環境、散策路、商店、食堂など有意義に滞在するための情報、さらには上手な入浴法、日常生活を楽しく過ごすための専門家によるアドバイスなどを常に新鮮な情報として全国どこからでも入手できるような体制作りに励みます。
基本となる考え
実施計画を通してたどり着くところとでも言うのでしょうか、最終的にこうでありたいと考える鳴子の姿。
しかしこれは、いつまでたってもたどり着くことができないということをも内包しているようです。
暫定的手法による永遠の通過作業にも似て、とてつもないエネルギーの結晶が突然無に帰してしまうことも考えられます。
なぜでしょうか?
これまでの多くのイベントが一過性のものでしかなかったことを思い出してください。
果たしてそこに、地域の理念があったのでしょうか?
大いに疑問です。
地域の理念に即さないイベントの繰り返しが、いつしか地域の大事な理念そのものの崩壊につながってしまったのではないでしょうか。
多くの先達が地域の風土として残してくれた一番大事な考え方、生き方を鳴子ならではの方法、鳴子だけによる方法で再生することに、この事業全ての鍵があるように思えるのです。
参加する方全てが、その時々に良いと思ったことを手がかりにして前に進むしかない、そんな事業になればと心から願っています。